「出版」の壁ようやく風穴 電子書籍端末、出遅れた日本

2010年05月24日 日本経済新聞より 米国やアジアのIT(情報技術)企業が電子書籍関連市場に新規参入している。書籍もインターネットの上では音楽や映像同様、IT企業が得意なデジタルデータの一種となるため、参入しやすい。一方、日本勢はIT企業も出版業界も対応に遅れ感が出ている。 電子書籍市場への新規参入を加速させたのが米アップルによる新型多機能端末「iPad(アイパッド)」の開発だ。画面の大きさがB5サイズの本や雑誌のページに近いため、電子書籍に利用しやすい。同社は4月初め、米国内向けにアイパッドを発売すると同時にアイパッド向けの電子書店も自前で開設した。書籍流通市場への新規参入といえる。 対抗するように米グーグルは6月中にも、電子書店「グーグル・エディション」を開設する。こちらはパソコンでも携帯端末でも、端末の種類にかかわらず利用できるウェブ上のサービスだ。 韓国ではサムスン電子が同国書店最大手と提携し、電子書籍専用端末を発売する一方で電子書店サービスを立ち上げた。さらに同国政府は2014年までの5年間に約50億円を投入する電子出版産業育成政策を実施するという。 台湾でも電機大手のベンキューが電子書籍専用端末を発売。日本の電子書店「イーブックジャパン」を運営するイーブックイニシアティブジャパン(東京・千代田)と技術提携し、同端末向けの電子書店を立ち上げた。 対照的に日本国内の動きは遅れ気味だ。パナソニックやソニーは一度、国内の電子書籍端末市場から撤退。その後再参入のめどが立っていない。富士通フロンテックなどが和製専用端末を開発・販売しているが、大規模な電子書店が出てこない。 たとえば国内電子書店の草分け、イーブックジャパンがパソコンやスマートフォン向けに配信する書籍はコミックを中心とする3万5000点。電子書籍販売世界最大手、米アマゾン・ドットコムの54万点の10分の1に満たない。 国内で電子書籍流通市場の形成が遅れている背景には、出版業界が電子書籍の普及に慎重姿勢を続けてきたことがある。電子データには再販制がなじまないことから電子書籍が普及すると書籍の値崩れが起こりかねない。さらに「縦書き、ルビなど日本語独特の文章表示様式に対応する技術がない」(角川歴彦・角川グループホールディングス会長)ことも出版界に二の足を踏ませてきた。 出版業界は電子書籍対応技術の標準化などを進める「日本電子書籍出版社協会」を2月に設立、ようやく前向きに取り組み始めた。講談社もアイパッドなどで京極夏彦氏の新作ミステリー小説を刊行することを決めた。 これを契機に国内IT企業も日本語に向いたハード、ソフトの技術開発を加速しそうだ。米国やアジアのIT企業に席巻される前に消費者に受け入れられる技術を打ち出せるか。日本企業自身が日本語文化伝承の担い手になれるかどうかは、時間との競争になりそうだ。

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